僕は真昼間に、窓から日光が差し込むとても綺麗な白い壁が印象的なレコ屋に居た。
16畳ほどでサイズの割にはだいぶレコードが多く、なかなか良い感じに整えられた愛情がある散乱をしている店内。
レコ棚は全くジャンル分けも、A-Z順にも整理されていない。新入荷やレア盤やオススメ盤の壁掛け展示も一切無く、
そのかわり日光が程よく反射する白壁がレコ屋特有の圧迫感を緩和していた。
このままドリップコーヒーを頼みたいくらいの居心地。BGMは無く、歩く度に木張りのフロアがきしむ音が少しするだけ。
店内には僕一人。さっそくレコードを無作為に掘り始める。しかし、ジャンルも何も分からない。
100枚くらい見たが、全く分からない。視聴しようという発想にすらならないくらいに僕が知らないレコードばかり。
隣の箱を見てみるが、また未知のレコードばかり。。。そして値段さえ付いていない。
あっけにとられていると、黒いキャップを被ったスケートはしないスケーター風の青年が入店。
彼は慣れた感じで僕とは反対側のレコード箱に行った。きっと常連なんだろう。
僕はまた未知のレコードを掘り続ける。もう知らなすぎて笑えてくるくらいのお手上げ状態。
僕の手は止まっていて、店内にはさっき入って来た青年がお目当てのレコードを掘る音が心地よく聞こえる。
レコードを傷めない最低限の優しいトントンという音。
その音すら止まって無音になった。
気になって彼の方を見た。
彼は口をあけ、今にも泣き崩れそうで抱き締めてあげたいくらいの涙目で放心状態だった。
きっと彼はこの瞬間、この銀河で一番の幸せに包まれていたと思う。
もう僕はあの瞬間をしばらく味わっていない。いや、味わっていないと言うのは無責任で傲慢すぎる。
私は味わう努力をしていないただの愚か者なのだから。
レア盤が安く出てたりしたり、格安でオリジナルを見つけたときは、おお!っとなることはあるが、
このレコ屋は値段を付けていないので、彼の感動はこんな金銭感覚の安っちぃマインドではない事は確かだった。
幸福とは何かをやり続け、貫いて、愛し続けた者のみ味わうことができる。
努力も信念もないやつにこの幸福を味わう資格はないし、その味すら分からないのだろう。
今僕の目の前にある未知のレコード達が完全にそれを物語っている。
僕はコレらの美味しさが全く分からないのである。
レコードも掘らなくなったし、今はレコードを作る側に全てを投じ、黒子に徹している。
音楽の出会いの場とは疎遠になって来た。この瞬間の彼の多幸感を祝うと同時に、己の音楽に対する欠落を呪った。
全く知らないレコードばかりのレコ屋。これは僕にとって天国なのか地獄なのか。
ただ僕は今、エンドルフィンの爆発のようなDIGを目の当たりにした。
このタイミングでもう一人店内に入って来た。
彼はこっちのレコードコーナーには行かずに反対側のカウンターに向かって行った。店主が来たようだ。
彼の営業の定位置に着いたのか、ゆっくりとこちら側を向いた。
とても優しく澄んだ目で僕に微笑んだのはDisc Shop Zeroの飯島さんだった。
もう訳がわからずだった。僕はここで夢から覚めました。
多分パニックになって起きたんだと思う。数年ぶりに夢をみた。
連日分け解らんくらいの量の仕事依頼があり、超自主的なワークホリック状態。
忙しさだけが、この孤独の悲しみから唯一解放してくれる毎日。
飯島さんにも逢いに行けなかった。きっとこんな僕にも逢いにきてくれたんだと思う。
夢はすぐに言葉にすると忘れない。って聞いたことがあり、僕は今こうして文字にしてます。
夢とはいえ、とんでもない経験をさせて頂いた。今思い返すと、
あそこはレコ屋の極地のような場所だった。値段、ジャンル、レアリティや固定概念から解放された空間だった。
きっとあそこは飯島さんの新店だったと思います。
「ダブプレート」
恐らくレコードショップ経営者からしたら、この世に必要ない存在、
むしろ無い方がいい存在かもしれませんが、こんな僕を暖かく迎え入れてくれた
本当に数少ないレコードショップ Disc Shop Zeroの飯島さん。
付き合いは正直に言うとかなり短い。だけど、短いながらにも確信的な話を沢山させて頂いた。
『Wax Alchemyはダブ屋って言うより、品質保証のロゴだよ』
今でもそこを目指しているし、5000%お世辞なのは分かってるが、嬉しかったし、理解してくれて感謝しています。
短い付き合いながらにも飯島さんとは沢山の作品を共に仕上げました。
これからの事を想像すると、寂しさが残りますが、
共にした作品達は一切妥協無く仕上げました。交友に一切の後悔はありません。
また一緒に何かやれる事が楽しみです。
あなたの旅立ちは、僕の旅立ちに楽しみを与えてくれました。
では飯島さん、次会う時まで腕磨いておきます!
ありがとうございました!
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